異聞 恋の奴
(2002.07.21)

家にありし櫃に(かぎ)さし蔵めてし 恋の奴のつかみかかりて
 


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「ねえ、皇子さま。私、行きたい所があるの。」
坂上郎女は、いつものようにおねだりをする時のとっておきの微笑を浮かべて穂積皇子の袖を
くいくいっと引っ張りながら言った。皇子は坂上郎女のこの顔に弱い。つい何でも聞いてあげたくなってしまう。
―愛い(うい)奴よ…。
皇子は目を細めて、腕の中にいる坂上郎女の大きな瞳を見つめ返した。
「お父上様が最近佐保山の天辺に作った『平城 夢の園』ってご存知?」
―そう言えば、宮中の采女どもがウキウキと話しておったような。
坂上郎女は平城京の東、佐保の地に住んでいる。佐保一帯は大伴氏の居地となっていた。
彼女はそのうちの「坂の上」のお屋敷に住んでいたので、「大伴坂上郎女」と呼ばれている。
坂上郎女の父、大伴宿禰安麻呂は、この美しい気丈で頭の良い娘をこよなく愛していた。
その婿殿、穂積皇子は右大臣という高位にあり、今後、後ろ盾となっていただけば大伴氏も安泰だ、といつも坂上郎女にもらしていた。
平城に遷都してまだ日も浅い。この都はまだまだこれからなのだ。
安麻呂は大伴氏の贅を尽して、『平城 夢の園』を建築した。宮人が待ち望んでいたてーまぱーくだった。引き車や、回転御車、幽霊御殿、など、様々なあとらくしょんがあり、若い恋人達に人気の逢引きの場所となっていた。
まだ15になったばかりの坂上郎女は、采女や舎人たちの噂話を聞いて、ワクワクしていたのだ。
きっと行こう。穂積皇子様はお優しいからお願いすれば連れて行ってくださるわ。いつだって何だって私の言うことを聞いてくださるのですもの。
坂上郎女は透き通るように白く細い腕を皇子の首にするりとまわし、ぴったりとすり寄って、言った。
「ね、行きましょ。ねえ、ねえ、皇子様〜…」
本当は、午後から会議があったのだが、どうにも断れない。皇子は坂上郎女に甘えられると、骨抜きになってしまう。
―仕方ないなあ。今回だけだよ。

そうして二人は、手をつなぎ、坂上郎女の「坂の上のお屋敷」を後にした。

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非常にふざけたお話でごめんなさいm(_ _)m
穂積皇子は私の中で大好きな人物です。坂上郎女も然り。
愛ある上でのパロディだと思ってください・・・(^_^;)
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