万葉の花「うつぎ」について
「とっても身近な植物図鑑」の植物解説コーナーです。この植物図鑑らしく、普通の植物図鑑のように、「葉身は卵形、長楕円形あるいは倒卵形で、長さ...」というような説明はここでは取り上げません。花の名前を知ったら、誰でも植物図鑑でそのような説明は見ることが出来ますから。
では、何を?やはり、皆さんの身近な疑問になるべくお答えするような内容にしていこうと思っています。つまり、何故そういう名前なのか?とか、こっちと似てるけどどう区別するの?とかです。
その最初の題材として万葉の花に入っていて、今、「万葉の花」というサイトで話題になっている「うつぎ」を取り上げることにしました。

まず、「うつぎ」という語が付く樹は、何種類かあるのです。
@「ユキノシタ科」の「ウツギ」「バイカウツギ」「マルバウツギ」など。
A「ドクウツギ科」の「ドクウツギ」
B「スイカズラ科」の「ツクバネウツギ」「ハコネウツギ」「タニウツギ」など。
D「フジウツギ科」の「フジウツギ」「コフジウツギ」
この他にもあるかもしれません。見つけ次第追加します。

つまり、本来の「うつぎ」というのは、ユキノシタ科のもので、名前の由来は幹が中空であることから、「空木=ウツギ」という名前が付いたのだそうです。で、「うつぎ」を「ウノハナ」とも言いますが、これは「ウツギノハナ」の省略形という説と、卯月に咲くからという説があります。
他のウツギは、ユキノシタ科のウツギに木の形が似ているところから、○○ウツギという名が付いたのだそうです。ということは、幹は中空ではないんでしょうね!
ウツギ(ユキノシタ科)
2004.5 生駒市・圓證寺

これが「ウツギ」です。
特徴は花びらも、葉っぱも他のユキノシタ科のウツギに比べると細いのです。
花びらの数は5枚です。
右のヤエウツギを大きくしてみたときの花びらと、形が似ているのがお分かりいただけるでしょうか?
ヤエウツギ(ユキノシタ科)
2003.6 生駒市・圓證寺

変種の八重咲きの物です。
樹形が分かる写真にしましたが、これでは花が分かりませんね。
は、こんなのです。
撮影場所はウツギと同じ、圓證寺というお寺の境内なのですが、これを撮影した時は、ウツギは咲き終わってしまっていたようで、見つかりませんでした。
翌年発見して撮ったのが左の写真です。
ノリウツギ(ユキノシタ科)
2003.8 比叡山・延暦寺

ウツギという名前が付いているので、採用してみましたが...形はどう見ても「紫陽花」の仲間みたいですね。
「ノリノキ」という呼び名もあって、幹の内皮で製紙用の糊を作るのだそうですが、では何故「ウツギ」か...北海道では、「サビタ」と呼ばれ、喫煙パイプの材料になった...ということなので、やはり「空木」なのでしょう。
バイカウツギ(ユキノシタ科)
2003.5 当麻町・石光寺
Photo by 河内太古さん

アップの写真ではないのでよく分からないかもしれませんが、花びらは4枚で、梅の花に似ています。
樹形はこの写真がよく分かるのですが、花の形はPENTAさんの写真の方が分かりやすいので、クリックしてご覧下さい。
マルバウツギ(ユキノシタ科)
2003.5 鎌倉市

名前の由来は空木より葉が丸いから。で、こちらの花びらはウツギと同じく5枚です。
タニウツギ(スイカズラ科)
2003.5 甘樫丘
Photo by 風人さん

これが「万葉の花」サイトに、現在「ウツギ」として取り上げてある花で、「タニウツギ」です。
スイカズラ科ですから、合弁花、つまりラッパ状の花で、先端のみが分かれています。
ツクバネウツギ(スイカズラ科)
2003.5 二上山

花の付け根に羽根突きの羽根に似た「がく」を持っていて、実がなっても落ちないことから「衝羽根」ウツギというそうです。
この写真は小さくて分かりませんが、クリックして大きくして見て下さい。
ハコネウツギ(スイカズラ科)
2003.5 大阪市・安居神社

ウツギと呼ばれている樹の中では一番ポピュラーな「ハコネウツギ」です。庭木として、又は公園などでもよく見かけます。
自生地は海岸付近ですから、箱根には自生していません。
「誤認に基づくものである」と、牧野富太郎博士は記載しておられます。
ハコネウツギ(スイカズラ科)
2004.5 浜名湖花博

左のものと同じハコネウツギですが、葉に斑が入った園芸品種です。
このように、ハコネウツギは白とピンクの濃淡が混じって咲くのが特徴です。
アベリア(スイカズラ科)
2003.6 大阪・石切

これも和名は「ハナゾノツクバネウツギ」、えらく長い名前ですが、「ウツギ」という語が入っています。一般には「アベリア」という呼び名の方が、聞き慣れているかもしれません。初夏の街路樹として、あるいは公園や庭の樹としてお馴染みのものです。
アベリア(スイカズラ科)
2003.10 奈良市

左のアベリアと同じですが、色はピンク。
これも街路樹を写したものです。
さて、今手に入った画像はこれだけなのですが、果たして万葉人が見ていた「うつぎ」はどれなのでしょう?「分類形態学」等という学問の無かった時代ですから、ユキノシタ科だろうと、スイカズラ科だろうと、関係ないって事ですものね。

おまけ:ドクウツギについて
「いちろべごろし」という恐ろしい別名を持っています。が、別に特定の「市郎兵衛」ということではないらしいです。春に黄緑色の小さな花を付け、豌豆ぐらいの、最初は赤く次第に紫黒色になる甘い汁を含む実を付けるんだそうですが、この実が有毒で、誤って食べると死ぬとか。
で、どうして甘いって分かってるんでしょ?
食べた人が、死ぬ間際に言い残したとか?(@@
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