ガイドブックがいど
−その3−
【花と万葉のガイド】


このページの題名に、わざわざ「万葉」という言葉を引っ張り出してきたのには、理由があります。
明日香は、とりたてて特別な花の咲く場所でも何でもありません。
しかし、私にとって明日香に咲く花は、何かを語りかけているように感じてなりません。
そんな「花との対話」のすぐれた例の一つが「万葉集」だと思います。
明日香に咲く花の解説であれば、植物図鑑があれば充分です。
しかしここでは、花の、あるいは植物の特徴ではなく、
「花の表情」に触れることのできる本を取り上げたいと思いました。
季節ごとの花を楽しむのはもちろん良いことですが、
その花にまつわる万葉の歌に親しむことによって、
その楽しみはさらに広がることと思います。



東方出版 「やまと花萬葉」 写真:中村明巳 文:片岡寧豊


この本は、さる雅(みやび)な方からのいただきものです。
万葉歌に登場する植物とその歌の解説、写真、そして花にまつわるエピソードで構成された一冊です。万葉びとたちが親しんだと同じ花を、我々もまた共有できるという喜びを味わうことのできる本といえます。
写真の美しさは言うまでもありませんが、それぞれの歌の英訳なども織り込むなどの楽しい試みもあり、充実した一冊に仕上がっていると感じます。



光村推古書院 「花手帖〜大和路〜」
 岸根立身

私が解説を述べるよりも、ここでは著者のあとがきから引用させていただいた方がよさそうです。

「手帖より 溢るる花よ ありし日の 母の笑みにて 輝けばよし」

『花手帖〜大和路〜』は、岡山に住む年老いた花好きの母に大和路の写真を送り、心の安らぎにしてもらいたいと始めた便りがきっかけで、この五、六年の間に撮り進めてきたものです。(中略)
しかし、私にとって、花はかわいらしいく、美しく、やさしい存在で、母へという気持ち以上に、私がこのか弱い存在に心慰められてきました。(中略)
できれば、大和路を訪ね、直に四季を彩る花に接し、見ていただくこと、それが何よりだと思います。

− 著者・岸根立身(きしね たつみ)氏のあとがきより抜粋しました。



山と渓谷社 「奈良 花の名所12ヶ月」 中島史子 編 写真:藤井金治

見頃となる時期の月ごとに、花の名所の紹介がわかりやすくまとめられています。明日香を含む奈良地方の花の名所は、これ一冊で充分なほどです。
こういった本で軽く予習していくだけで、名所なのに時期が合わなくて見られなかった、という残念なこともなくなりますので、このようなガイドは、とりあえず一冊は手元に置いておきたいですね。



実業之日本社・ブルーガイドニッポンα 「奈良・大和路 万葉の花」


こちらも奈良・大和路の花の名所を紹介したものですが、巻頭に「万葉の舞台・飛鳥の歳時記〜明日香村に咲く花」という数ページの特集があるぶん、明日香好きには+10点ポイントが高くなってます。
「万葉の大和路を歩く会」の企画・運営に携わる著者だけに、万葉花の解説も詳しく、しっかり読むと、非常に勉強になり、参考になる一冊です。
「名所」だけでなく、大和路に咲く花の個々についても取り上げ、解説を加えているという親切さにもポイントをあげたいところです。