博物館実習日記

博物館実習

教員になるために教育実習があるように、学芸員になるために博物館実習というものがある。
学芸員単位取得過程の最後の科目で博物館実習Uという科目名がついている。
ちなみに博物館実習Tは主に大学3年の時に大学で行なう実習である。
それを踏まえたうえで4年になると実際の博物館に出向いて実習させていただく。
大学に博物館があるのが一番いいのだが、あいにく私の大学にはないので探しに行くことになる。
うちの大学の学芸員過程自体がまだ新しく5年くらいしかたっていないのでつい最近の緒先輩方は
ご自分で博物館の門を叩かれたそうだ。私たちの学年はその先輩方が作られた実績と信頼の上で
そんなに苦労せずに博物館側に受け入れていただけるのである。有難いことである。
私も例外ではなく、私が行った博物館には先輩がいらっしゃった。
そもそも博物館選びは東京に出ている人でも実家に帰って近くで行なうものなのであるが
私の場合逆に実家が(博物館の多い)東京にあるにも関わらず、関西まで赴いた。
それは教授の勧めでもあった。(つまり私が関心あることを扱っている唯一の博物館だった)
先輩は教授から紹介していただいた。先輩も関東から初めて出向かれたそうだが、
その博物館は関東からの実習生受け入れは初めてだったらしく、
会議まで開かれたらしい。私はそんなこともなく、(もちろん先輩の信頼のおかげで)
3年の10月頃には実習生として受け入れて頂けることが決まっていた。
実習先が決まったのはかなり早いほうだった。
期間は、短くて約1週間、多い所になると10日から2週間くらいの所もある。
これは博物館側の都合に合わせていただくわけだから
公平でないのは仕方がない。私のところは5日間だったから、多分一番短いと思う。
だが、内容はかなり充実していた。
長くてもずっとお掃除だった(!)といっていた人もいたから
期間よりむしろそこで「何を学ばせていただけたか」が一番重要なのだろう。

実習前

私が行ったのは三重県にある大伯皇女に関係ある某博物館である。
10月に先輩を紹介していただいてから実習直前まで様々なアドバイスを頂いており、
どんなに楽しく、充実していたか、期待していいということを叩き込まれていた
ので本当に楽しみにしていた。
実習の前の日には三重県入りし、松阪・斎宮・伊勢の周辺を散策していた。
伊勢神宮の内宮・外宮共に行き、実習の成功を祈った。

実習1日目

待ちに待った実習1日目。憧れの学芸員さんに会うことができた。
会うどころか毎日指導していただくことになる!
当たり前だが、ちゃんと先輩のことも知っていらっしゃった。
ちなみに統計として1つの博物館に学芸員が1人居ればいいほうだ、といわれている。
それくらい学芸員は少ないのである。当然、採用もあまりない。
その点、この博物館では学芸員の数はかなり充実していた。実習生は十数人いた。
最初の日は、博物館内の見学だ。普段、裏は入れないからかなりいい体験になった。
特に資料の保存方法についての工夫に最大限の注意を払っていることがわかり、苦労が伺われた。

実習2日目

2日目は、猛暑の中、史跡を端から端まで歩いて回った。飲み物を持ち、顔を真っ赤にして
歩いた。最後のほうに博物館から他の学芸員さんが車で迎えに来てくださったのだが、
それに乗って博物館まで戻ると言い出す人はいなかった。全員最後まで歩ききった。
歩くことでどんなに広い範囲かがわかったし、それぞれの史跡の意味も少し理解できた。
通常は発掘体験が出来るそうなのであるが、今回はあいにく発掘が行なわれておらず、
(行なわれているどころか、埋め戻し作業をしていた)
手伝わせていただくことは出来なかった。まだ一度も発掘体験をしたことがない。
発掘がないので全体的に講義が多く、頂いた資料は膨大なものになった。
おかげで博物館についていろいろ考えさせられた。

午後は発掘調査で出てきた土器の整理を手伝わせていただいた。
土器を洗うこと、土器の裏に出てきた場所などの情報を細い筆で書くこと、
土器のかけらをパズルみたいに組み合わせて形を戻すこと。
の3つの作業をやらせていただいた。この実習の中で一番楽しかった作業だ。
20分ずつの交替だったのだが、20分もすれば最後のほうは土器を洗う時の力の入れ具合が
分かってきたし、細い字を書くことが少し出来るようになったし、土器のかけらの
パズルが解けたときの喜びを知ることが出来た。(逆にとても根気のいる作業だとも思ったが)

実習3日目

3日目は博物館内の映像展示を見た。ちなみに実習中は実習生として展示をタダで見させていただけた。
何度も自由に出入り出来るという贅沢はたまらなく嬉しかった!毎日毎日何度も何度も展示を見に行った。
2日目の史跡めぐりと3日目の映像展示を使ってどうアピールするかがレポート課題で
最終日に発表、というのが今回の課題だった。
課題はもうひとつあり、学習シートを作るというものだった。
学習シートとは、博物館側が与える質問に対して博物館をまわりながら
展示を見て質問に答えていく紙のことでより展示を分かりやすくする役目を持つ。
この日は、古文書に触らせていただけた。通常、資料に触る時は手袋を必要とするのだが、
ここでは直に触らせていただけた。その分、紙の感触、巻かれ方などに触れることが出来た。

実習4日目

4日目は、午前と午後二班に分かれて同じ事を交替でする。
1つは写真撮影で、もう1つは美術資料の取り扱いだった。
私は先に写真を体験した。一枚の写真を撮るのにどんなに大変かが分かった。
資料の置き方。ライトの当て方。影を出さないようにすること。
カメラの絞り。すべてはその資料(物)を分かりやすく残し、伝えたい
という気持ちからその物にとって一番いい状態を写真に写すための努力だ。
カメラの扱いは大変だった。1つでもステップを飛ばすと「はい、今のは撮れていないよ」
といわれてしまう。(フィルムを入れていない練習なので無駄にはなっていない)
よく間違えるのがレンズが開いていなかったり、蓋が閉まったままだった場合である。

午後は美術品の取り扱い方だった。3つの資料を並べられてこの違いを分かりやすく
説明しなさい、ということで1人ずつ説明していった。どの人も見かけや手触りの
違いを指摘したのだが、求められていることは違った。
要するに、写本か、レプリカか、複製か、を問いたかったらしい。
この3つの種類の言葉が出てくるまで学芸員さんと実習生との知恵比べ
のようなものが起こった。実習生はいくらヒントを出していただいても
なかなかわからなかった。それだけに判明した時は本当に勉強になった。

実習5日目

この日までに出されたレポートは3本。
先の2本と土器を使わずに考古学展示をする方法を考えよ、というものだった。
それは提出だけだったが、他のは全員が考えてきたものを発表し、講評し合った。
こういうのはかなり苦手だったのだが、自分が考えたことに対して
コメントしていただけることで違う見方を出来る、といういい経験をすることが出来た。

実習を終えて

実習中はひたすらメモをとって一言も聞き逃すまいと思っていた。
レポートは3本もあり、しかも4日目までびっしり実習予定が詰まっている中での
作成だった。学芸員でも1つの展示を立ち上げるのに1年くらいかけるのに
まして私たちのような初心者がたった数日で何かを作り上げろ、といわれても
無理だ、と実習生たちは言っていた。だが、実際皆の作品を見てみると
テーマ博物館として同じものしか扱っていないにもかかわらず
人によって全然違うものが出来るのだな、ということがわかって面白かった。

最後になりましたが、博物館の学芸員さん、実習生の皆さん お疲れ様でした。
貴重な体験をさせて頂きまして本当にありがとうございました。
また何度でも行ってみたいです。

歴代斎宮へ戻る/ 飛鳥へ 更新日:2002,10,3