三侠五義・其の十三 衆破銅網陣(襲撃銅網陣)・1

 物語は鍾雄が智化らに説得されて朝廷に帰順した時の事である。ある日、鍾雄は宴席を授けて、一同と今後の山寨の軍備について話し合っていると、徐慶と艾虎がそれぞれ一人ずつ人間を担いでやって来て、地面に投げ下ろした。
 一同が見れば、それは賽尉遅祝英とその従者である。祝英は寨主が朝廷に下ったと聞くや、山を抜け出し、襄陽王へ密告の手紙を送ったのである。しかし半里も行かないうちに、追い付いた徐慶と艾虎に捕らえられたのである。
 鍾雄は激怒し、卓を叩いて立ち上がった。智化が北侠の欧陽春に目配せすると、欧陽春は刀を振り下ろし、祝英を真っ二つに叩き切った。それを見た艾虎も、抜いた刀を一振りして従者を切り捨てた。

 一同は新たに席を授けた。酒が三巡した時、智化は襄陽王の銅網陣を破り、白玉堂の仇を報いたいと提言した。だが、鍾雄は首を横に振った。
「難しい!君達は銅網陣の構造を知っているのか?誰が考えたかは?」
「雷英が作ったと聞きましたが。」
 蒋平の言葉に、鍾雄は手を振った。
「私も最初はそう聞いたが、前に襄陽王府に何日か滞在した時、実は雷英の義父の彭啓の考案だと知ったのだ。この陣を破るには、この人物なしでは不可能だろう。」
 蒋平は彭啓が雷府に住んでいると知り、暫し考え、計略を練り上げ、鍾雄に耳打ちした。鍾雄は何度も頷いた。
「兄弟には一走りしてもらわねば。」

 次の日、蒋平は智化、展昭、柳青と共に、薬売りに変装すると、山を下りた。昼は道を行き夜は宿で泊まり、数日後に襄陽城に着いた。
 城に入ると、蒋平は一行が落ち着ける小さな廟を見付け、自分はそのまま真珠八宝巷の雷府へ出掛けた。
 応対に出て来た雷府の召使は、老主人を訪ねて来た人物が、蒋似水と名乗って取次ぎを頼んだので、慌てて答えた。
「蒋旦那様お入り下さい、老旦那様は貴方のお越しをお待ちになっていました。」
 知らせを聞いた雷振は、急いで迎えに出て来ると、顔を見るなり叩頭し始めた。
「蒋恩公、お懐かしゅうございます。」
 蒋平は慌ててそれを止めた。
「いけません、いけません、私の様な若輩に。」
 二人は手を取り合って中に入った。

 出入りの門を通り、蒋平は呆気に取られた。五間続きの上房(母屋)の両端は耳房(物置き等の脇部屋)になっており、耳房の門には敷居がなく、漆黒の門には八稜型の銅の出っ張りが取り付けられてあった。
「何だ、こりゃ?」
 蒋平は心の内で考えていた。
 客間に入って、蒋平が席に着くと、雷振は召使に宴席の用意を言い付けた。旧交を温めると、蒋平は尋ねた。
「兄上、こちらのお屋敷には何故東西の廂房(別棟)がなく、四つの小門には敷居がないのですか?」
 雷振が答えた。
「私にはちょっとした持病がありまして、食べてすぐ寝ると、胃がもたれるので息子が心配し、自動で彼方此方行く事の出来る坐車(鉄牛)を用意してくれたのです。庭に行くのに、銅の出っ張りを回せば、それで門が開きます。何周かすれば、胃もたれも落ち着き、眠りに戻ります。」
 それを聞いて蒋平は言った。
「息子さんは素晴しい技をお持ちですね!私も作り方を習いたいものです。」
「恩公、お入り用なら、これを差し上げましょう。」
 雷振の言葉に、蒋平は手を振った。
「これは私には不要です、君子は人の好む所を奪わず、です。」


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